企業が非営利組織(NPO)などの市民活動団体と連携して活動するケースが目立っている。営利を求める企業と、NPOは「水と油」の関係に例えられることがあるが、今は結びつきが強いという。企業の事情にも詳しい大阪ボランティア協会の早瀬昇事務局長に企業と市民団体が組んだ社会貢献活動の状況についてまとめてもらった。

企業が予算を死守
   「もうかりまっか」「あきまへんな」。大阪でも、定番の「ぼちぼちでんな」が聞かれない。景気は底入れしたとも言われるが、なかなか実感できない日々が続く。
 そんな中、経済団体連合会(経団連)・社会本部が先ごろ発表した「九十九年度社会貢献活動実績調査」の結果は興味深かった。調査対象(約千人)の多くは日本を代表する企業。不景気ながら、各社とも意外なほどの奮闘ぶりだった。
 内容をおさらいすると一社平均の「社会貢献活動支出」は四億三百万円と、前年度比五・五%の増加。支出額は九二年度以降、ほぼ同水準で推移している。
 回答企業がピーク時の四百社から三百社ほどに減り、無回答の企業の動向が気になるが、リストラに代表される厳しい経営効率化が進む中、多くの企業が社会貢献活動のための予算を死守してきたことになる。
 社内に専門部局を設置するなど組織的に社会貢献活動を展開し始めたのは九〇年ごろから。ただし当時はバブル経済の真っ最中。バブルがはじけた後は「ブームは去った」との見方もあろう。だが、社会貢献活動を企業経営の重要な一部とみなす企業は実は少なくないのである
 注目すべき点は、NPOや非政府組織(NGO)などと呼ばれる市民活動団体よの連携が急速に進んでいることだ。
 企業とNPOとの連携は九〇年以降、徐々に活発化。最近はこれが量的に拡大するようになってきた。
 これは同調査で、NPO法人や法人格を持たない市民活動団体への寄付金額(一社平均)が前年の四倍以上と、大幅に増えている状況からも分かる。企業の企業の社会貢献担当者らはNPOやNGOに対する支援・連携について、六八%が「重要である」「今後重要になる」と答えている。

多彩な取り組み事例
   実際、NPOと共同社会貢献活動を実施している企業は多い。十月中旬、大阪ボランティア協会は社会貢献担当者を対象に市民活動団体との連携に焦点をあてた調査を行った。回答された事例をみると、その内容はかなり多彩である。
 例えば、異文化理解講座を複数のNPOと実行委員会と組んで開催する大阪ガス、海外協力NGOと共同で東南アジアのマングローブ植林にあたる東京海上火災保険、NPOと共催で子どもにインターネットの安全な使い方の学習会を開くNEC、ボランティアグループと弱視者用「拡大教科書」の作成を支援する富士ゼロックス……。ほかにもリコーや安田火災海上保険が、環境NPOと共同で環境教育を実施している。
 しかし、よく指摘されるのは「非」営利組織であるNPOと、営利組織である企業とは「水と油」の関係ではないかという点。両者の間に、どんな接点があるのだろうか。
 当協会の調査に対して、アイシン精機の担当者はユニークな考え方を示していた。企業とNPOは「薩長同盟」だというのだ。
 「幕末、相入れなかった薩摩と長州が同盟できたのは、薩摩が欲しい米、長州が欲しい鉄砲を互いに取引することで結びついていった」。企業とNPOが手を結ぶには、主義や理想でなく互いに利益になる課題から結びつき、目的に近づく方がよいという。
 確かにNPOは、ボランティア活動に参加したい社員の受け皿となるほか、それぞれのNPOが持っている専門性を企業に提供することができる。
 例えば障害者の生活支援に取り組む団体がバリアフリー商品の開発に協力する、多文化共生に取り組む団体が社員の人権研修に協力するなどといった形で企業の本業や福利厚生にかかわることができるわけだ。

「経費」でなく「投資」
   具体的にみると、東京海上のケースではマングローブ植樹活動は、基本的に現地の了解を得るところからスタートする。ベトナムの実情をよく知るNGOのノウハウに頼る必要があるし、一方のNGO側には大手企業と連携することで、様々な支援を中長期的に受けられる利点がある。
 社会貢献活動が活発な米国では「社会貢献の費用は経費でなく投資」とする見方がある。日本でも株主説明の視点から、社会貢献に対する実績をきちんと上げるために、効率を重視するようになっている。
 相互の徳性を生かし、企業にもNPOにも社会にもプラスになる取り組みを生み出してきたからこそ、不況を乗り越えて社会貢献活動が活発に展開されているのだ。また、中小企業は大企業のような活動は難しいと考えがちだが、社員のモラル向上を考えると、積極的にボランティア活動に取り組むことは重要である。


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