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特定非営利活動促進法(NPO法)が施行され、十二月で三年目に入る。芸術文化の分野でNPO法人格を取得しユニークな活動を行なう団体が増えているが、他分野に比べてまだ少ない。NPO法人格取得に二の足を踏むところが多いためだが、市民と文化の距離を縮めるうえでNPO制度の利用価値は高い。 |
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北海道富良野市で二十日、官設民営の劇場である「富良野演劇工場」がオープンした。市が建設した劇場を運営するのは、九十九年二月、全国で最初にNPOの認証を受けた「ふらの演劇工房」この地で演劇集団、富良野塾を主宰するシナリオライターの倉本總氏が創造面で助言、脚本などを提供する。北海道から独自の創作劇を立ち上げていく。「日本人、特に中高年は芸術文化に接する機会が少ない。富良野から日本を変えていきたい」と倉本氏は意気込む。 演劇工房は倉本氏を応援する市民団体が母体。「当初は市民の中に、なぜ劇場が必要なのかと異論があった」と篠田信子・演劇工場長は語る。そこで、倉本氏を説得して高校生向けの演劇ワークショップを開くなど、市民に理解を訴えてきた。「市民団体が行政や芸術家を巻き込んで文化発信を試みる珍しいケース」(山岡義則・日本NPOセンター事務局長)として注目される。 |
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富良野の試みが成功すれば、芸術文化団体がNPO法人規格取得へと動く呼び水となりそうだが、現状は「純粋に創作活動を行うNPOは三十団体程度」(日本芸能実演家団体協議会)にとどまっている。経済企画庁の調べでは「文化、芸術、スポーツ振興を図る」NPO法人の数は六月末時点で五百三十八団体で、大半はスポーツ振興の団体とみられる。 創作活動を行う団体がNPO法人格を取得した理由は様々だ。京都フィルハーモニー室内合奏団(京都市)は今年一月に楽団としては始めてNPOの認証を受けた。活動内容はクラシック音楽を一般向けに編曲して演奏するなど非営利に近い。「財団法人になるには資金不足だった。職員の社会保健加入問題もあり、便宜上、有限会社の形をとってきた。もうかっているか、と問われると違和感があった」と小林明理事長は打ち明ける。 京都市から地元の廃校を練習場として借りようとしたとき、「営利企業には貸せない」と断られたこともあった。「NPOの認証を受けたことで、立場を説明しやすくなった」と語る。 「ク・ナウカ・シアターカンパニー」(東京)は昨年六月に任意団体から転じて、劇団NPOの第一号となった。ク・ナウは語る俳優と動く俳優が二人で一役を演じる独特の手法をとり、古典作品中心にユニークな上演活動をしている。宮城總代表は「政府や財団から支援を受けやすくするためにも、非営利の団体であることを示す必要があった」と語る。 目下のNPO法見直し論議の焦点は税制優遇措置導入の行方だ。大蔵省は公益性が高いNPOに対する個人寄付の所得控除には前向きだが、芸術文化団体がNPOになることで本当に活動しやすくなるかどうかは不明と言っていい。 |
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たとえば、公益性の判断。表現活動にとって公益とは何か、という問いにこたえるのは簡単なことではない。文化庁のNPO担当者は「芸術文化分野が税の優遇対象から外れることは何としても避けたいが、楽団や劇団公益性の有無を誰がどのような基準で判断するのか」(総務課)と戸惑う。 仮に税制優遇が認められればNPOの楽団や劇団が急増するかと言えば、そうでもなさそうだ。東京国際舞台芸術フェスティバルを運営するNPO、アートネットワーク・ジャパン(東京)の曽田修司理事は「確かに会社組織で運営してきた団体の一部はNPOになるだろうが、数は多くないだろう」と悲観的だ。 その理由として曽田理事はNPO法が定める会計公開義務をあげる。「舞台芸術などは金がかかり、やり繰りに苦労している。会計公開義務には耐えられない」と語る。 NPO法は阪神大震災で注目されたボランティア団体を活性化するための支援策として出発した。無償性が強調されたため、貧しいとはいえ事業収入を見込む芸術文化団体にそぐわない面があるのは確かだ。芸術家の中にはNPO制度とは別に新たな「芸能法人制度」を求める声も根強い。だが、米国の例を待つまでもなく、NPO制度は本来、市民本位の芸術文化を育てる大きな可能性をもつ。その意義と活用方法を真剣に考える必要があろう。 |
《主な芸術文化NPOと活動内容》 | |
◇ ク・ナウカ・シアターカンパニー(東京、国内外での演劇公演やワークショップ) ◇ 日本音楽集団(東京、日本の伝統楽器による演奏活動) ◇ 京都フィルハーモニー室内合奏団(京都市、定期公演や落語など異分野との共演) ◇ レコーディング・ミュージシャンズ・アソシエイション・オブ・ジャパン(東京、音楽の普及振興) ◇ 舞台芸術トレーニングセンター(京都府精華町、舞台芸術の人材育成や振興) ◇ ふらの演劇工房(北海道富良野市、演劇ワークショップや観劇事業) 〜日本芸能実演家団体協議会の調査から〜 |